光線

十年前のあの夜、携帯のライトをふと上へ向けてしまったことを、僕は忘れられないでいる。

 

光線は上空へと昇り、この星を抜け出し、それでもなお、自ら止まることも、消えることもできず、どこに辿り着くこともできないお前は、今頃どこを進んでいるのか。終わりのないお前の旅路には、もちろん半分だとか、三合目だとかいった概念すらもなく、どこまで進もうとも、それはどこにも進んでいないのと同じであり、それがつまり、永遠という檻なのであろう。

 

夜、寝転がって上を向くとお前のことを思い出す。今もなお、この宇宙のどこかで永遠に囚われたままのお前の姿が、まるで自分自身の行く末のようで眠れなくなる。僕は、いつまで僕で在り続けるのだろうか。死は、果たして終わりになり得るのだろうか。一億年先にも、明日があることを思う。部屋の角から、雨漏りのように永遠が染み出してゆく。永遠は部屋の底に溜まり続け、徐々にその水位を増し、やがてこの部屋を満たしてゆく。僕は息ができなくなる。嫌だ。死にたくない。死にたくない。

 

手を上へと伸ばしてみる。この手だ。この手が永遠を産み出したのだ。光線の姿をした永遠を。それは、この手に抱えるにはあまりにも重いものであった。

 

 

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