祖星

夢を見た。見渡す限りの暗闇、それは誕生して間もない宇宙であった。星が生まれた。この宇宙で最初の星であった。祖星とでも言うべきこの星は、しばしの明滅を繰り返した後、二つ目の星が生まれるのを待つこともなく、爆ぜてしまった。終始独りであったゆえ、その存在を知るものは居なかった。星の欠片はこの宇宙に遍く散らばり、後に数多の新星となった。この星たちもやはり、祖たる星の存在を知らぬまま、やがて爆発を起こし新星を生んだ。おおよそ、そのような夢であった。

 

祖星に始まり、絶え間なく続く星の明滅の、その果てに生まれた新星こそが、私であるとでも言うのであろうか。そもそも、祖星たるお前は、本当にそこに居たのか。この夢が、確かに存在したお前からのメッセージであるとか、そのようなことは思わない。夢は夢である。しかし、お前の存在を否定することもできない。お前は本当に存在したのか否か。これは、決して答えを知ることのできない命題である。この先どれだけ科学が発達し、遺伝子の仕組みや、宇宙の法則が明らかになったところで、永遠に確かめようのない命題なのである。ただ、私が生きてきた今日までの世界にも、実はこの命題が在り続けていたことを、そしてこれからも在り続けていくことを、私は決定的に知ってしまったのだ。

 

それからというもの、私はどうにも、それまでと同じ景色を見ることができなくなってしまった。この机の木目も、タバコの煙も、窓に見える木々の揺れも、その奥に望む雲の動きも、全く変わって見えるのだ。例えばどう変わったのかと、説明するのは至難である。なぜなら、私はもはや以前の景色を思い出せないのだ。いまの私にわかるのは、もう元のようにも戻れないのであろうという、ただそれだけなのである。

 

 

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